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運慶とミケランジェロ、その意外な共通点 「大理石の中の天使を自由にする」 サンピエトロ以外に3作の未完のピエタがあった?

目からウロコのトラベル・コラム「旅のエスプリ」イタリア

目からウロコのトラベル・コラム「旅のエスプリ」

旅のエスプリ Vol. 12

運慶とミケランジェロ、その意外な共通点

「大理石の中の天使を自由にする」?

「こんな夢を見た」で始まる夏目漱石の幻想小説「夢十夜」の「第六夜」に、平安末期から鎌倉初期にかけて奈良の興福寺を拠点に活動した仏師、運慶が登場します。

小説の中では、運慶が護国寺の山門で仁王を刻んでいるという評判を聞きつけた主人公が、散歩がてらに見学に行くという場面が描かれています。

「よくああ無造作に鑿(ノミ)を使って、思うような眉や花ができるものだな」と自分はあんまり感心したから独言のように言った。するとさっきの若い男が「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」と云った。(引用終わり)

運慶の最古作と言われる円成寺の大日如来像運慶は13世紀の仏師、そして、この小説の作家である漱石は1867年生まれです。運慶とは6百年も後の人間なのに、なぜ運慶の考え方がわかるのか不思議でもあり、同時に「眉や鼻が木の中に埋まっている」という、常識では理不尽に思える考えに深く納得させられてしまいます。

同じことをどこかで読んだことがあるような気がして、その記憶を辿ってみました。すると、その記憶の糸の先にあったのは、イタリアの偉大な芸術家ミケランジェロの言葉でした。それは以下のようなものです。

「全て大理石の塊の中には予め像が内包されているのだ。彫刻家の仕事はそれを発見する事」「大理石の中には天使が見える、そして彼を自由にさせてあげるまで彫るのだ」。(Every block of stone has a statue inside it and it is the task of the sculptor to discover it. I saw the angel in the marble and carved until I set him free. )

国も時代も、また運慶は木、ミケランジェロは大理石と扱った素材も異なってはいますが、「そこにあるものをただ彫り起こすだけ」という概念がぴたりと共通しています。ちなみに上記の言葉は本当にミケランジェロの言ったことなのかどうかは定かではないという説もあります。その言葉が出てくるのは、19世紀のロマン派美術美学研究者として有名なイギリスのウォルター・ペイターによる「ルネッサンス」という書物です。漱石もまたペイターの書物からミケランジェロに心酔しており、さらに共通点を持つ仏師、運慶を自作の中で登場させたのです。

サンピエトロ以外に3作の未完のピエタがあった?

システィーナ礼拝堂の天井画さて、話はここからミケランジェロへと変わります。彼の代表作は、システィーナ礼拝堂の天井画、最後の審判、ダビデ像、ピエタです。「ピエタ」とは英語で言うpity、慈悲という意味です。マリアがキリストの亡骸を抱く大理石像のピエタには、実は他に3つの作品があります。ただし、完成したのはサンピエトロのピエタだけで後の3体は未完となっています。

最初に完成したのが、皆さんもご存知の、1498年から1500年にかけて作成されたサンピエトロのピエタです。2つめのピエタは、フィレンツェのドゥオーモ博物館に収蔵されている「フィレンツェのピエタ」、またの名を「ドゥオーモのピエタ」で、1547年にミケランジェロが製作に着手しました。

さらに、同じくフィレンツェのアカデミア美術館収蔵の「パレストリーナのピエタ」は1555年頃に着手。最後の「ロンダリーニのピエタ」は、ミケランジェロが視力を失いながらも手探りで制作を続けたと言われています。遺作となった同作品は前の2作同様、未完のままではありますが、ミラノのスフォルツァ城博物館で見ることができます。

「ダビデ」と並んで、ミケランジェロの最高傑作に挙げられる「サンピエトロのピエタ」は、当初はサンピエトロ大聖堂ではなく、サン・ペトロニッラ礼拝堂内のジャン・ド・ビレール枢機卿の墓の上に配置されていました。しかし、後の改築時に取り壊されることが決まり、ピエタ像は現在の場所に移されたのです。

さて、この「サンピエトロのピエタ」ですが、過去に大きな損傷を受けています。最も深刻だったのが、1972年、精神病患者の男性が乱入し、「俺はイエス・キリストだ」と叫びながら鉄槌で像をたたき壊したという事件です。この事件後、入念な修復が施されたピエタ像は、防弾ガラスのパネルに見学者が触ることができないように包囲されています。
ミケランジェロ『サン・ピエトロのピエタ』
日本が誇る仏師の運慶と芸術的概念において共通項がある、ルネッサンス期のミケランジェロ。彼が残した4体のピエタ像を機会があれば、各都市を回って是非観賞し、それぞれを比較してみてはいかがでしょうか? ローマに隣接したバチカン、フィレンツェ、そしてミラノで、その全容を目にすることができます。「大理石の中の天使を自由にした」結果である彫刻作品を見て、皆様はどのような感想を抱くでしょうか?
サンピエトロ大聖堂のドームから望むサンピエトロ広場[geo_mashup_map]

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関 克久