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アメリカの中の、ケンタッキーという国 ~ Commonwealth of Kentucky ~

The United States of Americaの名の通り、アメリカは50の州(State)が一つの国(Country)を形成している。この50州の中には4つだけ、StateではなくCommonwealthが正式名称の州がある。
マサチューセッツペンシルバニアバージニア、そしてケンタッキーだ。ケンタッキー州は、北はオハイオ川、西はミシシッピ川、東は森林(Daniel Boone National Forest)に囲まれ、他地域との接触が少ないため独自の生活や文化を築いていった。奴隷解放が争点となった南北戦争においても、南軍(The Confederate)と同様に奴隷州でありながら、奴隷解放を進める北軍(The Union)寄りの立場をとるなど、独自の動きをみせていた。アメリカ東部とも、中西部とも、南部とも一味違うケンタッキーの見所をご紹介したい。

まずは、州北東部の中心都市レキシントン
ヒューストンから飛行機で2時間強の場所にある。市内には歴史的建造物やおしゃれなレストランも多いが、ブルーグラス・ステイトという愛称のとおり、レキシントンの周りにはゴルフ場と見紛うような鮮やかな緑が続く。幹線道路沿いの牧場には馬、馬、馬。ケンタッキーならではの情景だ。
この独特の景観を作り出している最大の理由は、その地質にある。州の基盤を形成するライムストーン(石灰岩)の層からカルシウム分が土壌や湧き水に溶け出し、ミネラル豊富な牧草はサラブレッドのしなかやで丈夫な骨を発達させる。アメリカの競走馬の多くがこの地域で育つ所以だ。(この水の影響かケンタッキーには美人が多いそうだ。)そんなレキシントンは「競走馬の都」ともいわれ、馬にまつわる場所が多い。

Kentucky Horse Parkは身近に馬に触れられる公園で、付属のミュージアムの展示も充実していて家族そろって楽しめる。レキシントンには全米で指折りの名門大学ケンタッキー大学があり、勉学とともにスポーツも盛んで、年中ケンタッキー大ワイルドキャッツの試合が観戦できる。2012年のNCAAの大会でバスケットボール男子が優勝したのも記憶に新しい。

バーボン・ウィスキーで有名なケンタッキーだが、ワインづくりも盛んである。レキシントンから州都フランクフォートにかけてはいくつか優良なワイナリーがある。今回そのうちの一つEquus Run Vineyardsに行ったが、テイスティングしたワインはどれも、カリフォルニア・ワインに引けを取らないと感じた。他の州ではあまり口にすることのないケンタッキー・ワイン、是非とも地元で味わいたい。

州最大の都市はルイヴィル。レキシントンから西へ車で1時間程度だ。人口30万人程度で全米規模で見ると中都市だが、ルイヴィルの見所は数多くある。
まずは1875年以来毎年休むことなく開催されている、全米最大のレース「ケンタッキー・ダービー」が行われるチャーチル・ダウンズ競馬場。「ケンタッキー・ダービーを見るまでは何かを見たというな」という言葉があるほど、全米が注目する伝統のレースで、5月の第一土曜日に開催されるダービーには全世界から約16万人が集まるという。セレブが集まるゴール前の観客席から競馬場の内側にある芝生席まで、年に一度のダービーを見ようとどのセクションも人で埋め尽くされる。
年間80日ほどレースが開催されるというチャーチル・ダウンズには、博物館やレストランが併設され、開催日以外でもガイド・ツアーに参加して実際のターフや厩舎、スタンドに足を踏み入れることができる。中でも、ダービーの優勝馬しか入ることのないウィナーズ・サークルを見たとき、このレースに勝つことが馬やジョッキーやオーナー、いや全ての関係者にとってどれだけ名誉なことなのかが伝わってくる。

野球好きの人にはルイヴィル・スラッガーのバット工場見学がお薦めだ。殆どの大リーガーのバットはここで生産される。以前は職人が1本あたり20分かけて削っていたものが、今では1分に何十本も生産されているという。見学ツアーでは、ヤンキースのジーターやレンジャーズのハミルトンなどのバットを手に取ってみることができた。博物館やバッティングセンターも併設されていて、なかなか楽しい場所だ。

その近くには、ルイヴィル出身のボクサー、モハメド・アリを湛える博物館もある。ローマ五輪の金メダリストで世界ヘビー級チャンピオン、派手な記者会見など現役時代の破天荒なイメージが強いが、近年はパーキンソン病をわずらい、アトランタ五輪の際に震える手で聖火を点灯した姿も印象深い。
彼がなぜアメリカでこれほどまでに注目される人物なのか、この場所に来るとよくわかる。黒人差別に異を唱えて金メダルを川に投げ捨て、ベトナム戦争に反対して兵役を拒否し、ヘビー級王座もボクサーライセンスも剥奪されながらも、ボクシングを愛した平和主義者。引退後も、病をおして世界各国を飛び回って国際貢献し続けていることを知り、アリに対する興味と尊敬の念が沸き起こった。
ケンタッキー州を表す精神として、Unbridled Spiritという語がある。Unbridleとは馬具をはずされた状態、すなわち、とどまるところを知らない奔放な精神という意味。まさにこの州出身のアリそのものを表す言葉で、彼の存在はケンタッキーのシンボルでもあるのではないかと感じた。

ルイヴィルから車で約40分、「バーボンの都」と呼ばれるバーズタウンも必見の街である。
バーボン作りはケンタッキー州の第四番目に大きな産業(1位はヘルスケア、2位は自動車産業、3位は馬の飼育)、アメリカ全土で生産されるバーボンの90%以上がケンタッキーで生産される。中でもバーズタウンは100年以上前から醸造所があり、何億円分ものバーボンが貯蔵される7階建ての倉庫を町のあちこちで見かける。

ケンタッキーのバーボン造りには2つの重要な要素がある。ライムストーンによってろ過されたた鉄分のない滑らかな水と、夏は暑く冬の寒さが厳しい独特の気候だ。この自然の恵みと厳しさによって4年以上、冷房も暖房もない倉庫で月日を重ね熟成されたバーボンは、ケンタッキーの、いやアメリカの誇る数少ない純国産品だ。全米でも最大規模の醸造所へブン・ヒル社や名酒Maker’s Markの醸造所に行くと、バーボンの製造過程を見学する1時間ほどのツアーに参加することができる。ツアーの締めくくりはテイスティング。各社自慢のバーボンを味わった後、バーボン・ボールというバーボン風味の生チョコレートの味わいも格別だ。

バーズタウンのもう一つの見所は、ケンタッキーの州歌にもなっている、‘My Old Kentucky Home’が作られた場所だ。アメリカを代表する作曲家スティーブン・フォスターがその家を見てこの歌を書き上げたといわれる場所が現在は州立公園となり、旧き良きケンタッキーホームが大切に保存されている。夏の2ヶ月間だけこの公園の野外劇場で上演されるフォスターの生涯を描いたミュージカルは、地元の人たちが楽しみにする、この地ならではのイベントだ。

夏が終わると、またケンタッキー人が愛する季節が訪れる。美しい緑の大地にカラフルな紅葉が彩りを添える秋だ。アメリカのどの州もどの地域にもお国自慢はある。しかし、このケンタッキーほど自分たちの住んでいる場所やそこで生み出される特産品に誇りを持っている場所はほかにないのかもしれない。変わり続けるアメリカという国の中で、今も昔も変わらないこの州は、これから先も変わらずケンタッキーらしさを持ち続けていくのだろう。

石井 光(JTB USA,INC.ヒューストン支店)

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【参照サイト】
Equus Run Vineyards
1280 Moores Mill Road
Midway, KY 40347
http://www.equusrunvineyards.com/

Churchill Downs
700 Central Avenue
Louisville, KY 40208

http://www.churchilldowns.com/

Louisville Slugger Museum & Factory
800 West Main Street
Louisville, Ky 40202
http://www.sluggermuseum.com/

Muhammad Ali Center
144 North Sixth Street
Louisville, KY 40202
http://www.alicenter.org/

 Heaven Hill Distilleries Bourbon Heritage Center
1311 Gilkey Run Road
Bardstown, KY 40004
http://www.bourbonheritagecenter.com/

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ルックアメリカンツアーのニューヨーク在住スタッフ。ニューヨークの旬ネタやグルメレポートなど「ニューヨークの今」をお届けいたします。旅のお役立ち情報も満載。
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