ギリシャのほぼ中央、ピンドス山脈の麓に、世界遺産のメテオラの町が広がっている。屹立する岩峰に荘重な修道院が建つ、ギリシャ正教の聖地として知られ、アテネ、エーゲ海の次のディスティネーションとして注目されている。麓に広がるクランバカの町から、綿のようにふんわりとした霧が競り上がってきた。メテオラで最大規模のメガロ・メテオロン修道院の展望台に立った時だ。霧の連なりが左から右にかなりの速度で流れている。
前方に屹立する岩峰に建つヴァルラーム修道院は、茶色の屋根を残して岩肌は白い霧のヴェールに包まれてしまった。まるで修道院が天空に浮かんでいるようだ。 聖地を吹き抜ける風の音にあらためて耳を澄ました。濡れた植物の匂いがする。ガイドのナターシャさんは首をすくめ「カニ・クリオ(寒い)」と呟いた。
メテオラの平原には60を超える岩の塔が点在している。低いもので約30m、高いものでは400mを超えるものもある。これらメテオラの奇岩怪石の洞窟に、隠遁する修道士が現れたのは11世紀初頭だった。やがて12世紀に入ると宗教都市として体裁が徐々に整えられ、14世紀半ば、ギリシャ正教の総本山アトス山から移ってきた聖アタナシオスが修道士とともに、平地から400mの岩峰上にアトス建築様式の修道院を建立した。 これがメテオラ最大、最高所のメガロ・メテオロン修道院で、メテオラの行政を司っている。そもそもメテオラとは「宙に浮かぶもの」の意味だ。
眼下に広がる絵地図のような町。メテオラが最盛期を迎えたのは15世紀から16世紀。24もの修道院が建てられたが、現在残っているものは6カ所のみで、残りは廃墟と化してしまった。6つの修道院の参観は可能で、見どころは各僧院に展示しているフレスコ画やイコン。1988年、メテオラ全体が世界遺産に登録された。
メテオラの各修道院には現在も修道士が住み、敬虔な祈りの生活が続けられている。各修道院には滑車が付いたケーブルが伸び、彼らの日用雑貨などを運んでいる。現在は石段も作られ簡単に行くことができるが、以前はそうではなかった。修道士たちは、巻き揚げ機や綱などでよじ登ったのである。
なぜ、そのような危険な高所に修道院を建てたのか。それは俗世間的なものから隔離し、できるだけ天に近いところで修行をするためだった。天上の神との対峙。そのための格好の場所だった。それにしても過酷な工事だったであろう。人間の宗教心というものはすごいものだと気づかされる。
メテオラ散策の最後は、アギア・トリアダ修道院とアギオス・ステファノ修道院へと向かった。岩峰の上のふたつの僧院は向かい合って建ち、その間からピンドス山が見えた。ナターシャさんは「この風景がメテオラで一番きれいですよね」と言った。
谷に架かる橋を渡って行ったアギオス・ステファノ寺院。14世紀に創建されたが、現在は尼僧院となっている。展望台の真下にはクランバカの町が広がっている。赤茶色の街並みはまるで中世の絵地図のように美しい。町のどこからかニワトリの鳴き声が聞こえてきた。どうやら霧もあがったようだ。
(写真:ギリシャのシーフード料理)
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