旅のエスプリ Vol. 40 |
皆さんは2011年製作のアメリカ映画「The Descendents(邦題「ファミリー・ツリー」)」をご覧になったことがあるでしょうか? 子孫というタイトルのその映画は、ハワイ王族の血筋のオアフ島在住の弁護士が主人公。ジョージ・クルーニー演じる弁護士マット・キングは、妻がボートの事故で昏睡状態になったことをきっかけに二人の娘たちとの関係を見直すことになります。
それと並行して、彼は一族でカウアイ島に所有する広大な土地をリゾートとして開発するプロジェクトにも関わっています。リゾート開発で手にする大金をあてにしている親戚もおり、マットは署名人として彼らの期待を一身に背負っているという設定でした。
この映画を見た時、私はハワイ島のマウナラニ・リゾートのことを思い出さずにはいられませんでした。その理由は後述するとして、まずはマウナラニについてご紹介しましょう。日本の東急グループが経営するマウナラニは、日本人に人気があるハワイのリゾートの中でも特に日本と深いつながりがあります。
というのも、同ホテルは「ハワイのゴルフ王」とも言われた、ハワイ王族の血を引くフランシス・ブラウンと、東急グループの前の総帥、五島昇との友情の結晶だからです。
1964年、東京オリンピック開催時に日本に滞在したブラウンは、五島と出会います。そして共通の趣味であるゴルフを通じて親交を深めました。二人は「忙しい都会生活のストレスを忘れて、真に癒されるリゾートとしての理想郷を構築する」という夢について語り合うようになります。
その時、ブラウンの頭の中には明確な候補地が思い描かれていました。その土地こそ、1936年、彼がカメハメハ大王の子孫から購入した、ハワイ島のカラフイプアアだったのです。
この土地は、ハワイ島のマウナケア、マウナロア、フアラライ、そして海を越えたマウイ島のハレアカラという聖なる山々の中心に位置し、マナ(ハワイ語で「気」)パワーの強い場所として古くから重用されてきました。
ハワイの人々は、どの場所の気が強く、どの場所の気が弱いかを明確に判別できることができたとされ、このカラフイプアアは中でも非常に聖なるパワーの強い場所として儀式の場所に使われたり、また、この地にあるフィッシュポンドと呼ばれる池で獲れた魚を王族に献上したりして、「特別な場所」として大切に扱われてきました。
ブラウンがカメハメハ大王の子孫が運営していたパーカーランチの土地を購入した際も、「フィッシュポンドを保護する」という約束が交わされました。それだけはハワイ王族側として譲れない条件だったのです。
その後、ブラウンは当地にベーブ・ルースやハワイのサーフィン王、デューク・カハナモクをはじめとするゲストを受け入れて、癒しの時を提供していました。
東急グループの五島総帥は、ブラウンが所有していた土地の周辺3200エーカー(東京ドームの約300個分)を買い取り、二人が夢に思い描いた「マウナラニ・リゾート(天国に手が届く丘)」開発に着手しました。
1983年、マウナラニ・リゾートは開業を迎えました。残念ながら、ブラウンは完成前にカリフォルニアのペブルビーチで亡くなりましたが、開業式で挨拶に立った五島が空を見上げて言った言葉「フランシス、僕たちの約束を果たしたよ」は今も語り継がれています。
その後、五島が亡くなった後も「リゾートの理想郷」としてのコンセプトはしっかりと、ブラウンの甥のケネス・ブラウンが引き継ぎ、マウナラニはオープン30年以上を経ても変わることなく、世界中からの人々を癒し続けているのです。
同リゾートの敷地内には今も美しい水をたたえたフィッシュポンドがあります。朝、昼、夕方、夜と時間によってそれぞれに神秘的な表情を見せるフィッシュポンドは、滞在客が必ず訪れるスポットになっています。
さらに近くのヒストリック・プリザーブ(遺跡保存公園)の中にはシェルター・ケーブという、古代ハワイ人が実際に暮らしていた洞窟が今も保存されています。その周辺はペトログリフと呼ばれる岩石彫刻の宝庫でもあります。
前述のように、ハワイ人たちは気の良い場所、つまり、ここを選んで生活していたのです。このように、マナパワーを一身に浴びることができるマウナラニ・リゾートは、今では、フランスのルルド、米国本土アリゾナ州のセドナと並び、「世界三大パワースポット」の一つにも選ばれています。
話を映画に戻しましょう。オチを明かすのは避けたいので、映画の中のマット・キングがカウアイ島の広大な土地をリゾート開発するための決断に至ったかどうかはここでは言えません。しかし、いずれの結果であっても、かつては王族しか所有することが許されなかったハワイの土地が持つ重みと意味は大きいのだということは、映画から伝わってきました。
ブラウンと五島は、その重みをしっかりと受け止め、さらに私たちのようなまったく「ハワイ王族と関係のない人」にも、癒しのパワーがシェアできる場所を造ってくれたわけです。彼らの友情と実行力に感謝すると共に、ハワイ王族に敬意を込めて、マウナラニ・リゾートを改めて訪れたいと思います。
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