1964年の東京オリンピックの前年の実験衛星中継の成功そしてその時の映像が映し出したものは？ - スタッフブログ｜JTB ルックアメリカンツアー

旅のエスプリVol 48

東京オリンピックは実は昭和15年に開催するはず
支那事変の影響で残念ながら中止決定

今年はリオデジャネイロ、そして4年後の2020年はいよいよ東京でオリンピックが開催され、オリンピックの話題には事欠かない昨今です。実は、第一回の東京オリンピックが決まったのは1936年昭和11年の事でした。当時の五大国の1つだった日本の首都東京市（当時は東京府東京市）に有色人種国家で初めて、そしてアジアで初めてオリンピックを開催する事をIOCが決めたのです。当時はアジアのほとんどの国が植民地で、独立国というと日本、タイ、アフガニスタン程度でした。開催年の1940年（昭和15年）は皇紀2600年にあたり、記念行事として準備が進められていたのもつかの間、支那事変の影響で日本政府は1938年７月に中止を決定し、代替地として招致合戦の次点だったヘルシンキに決まりましたが、これも第二次世界大戦の勃発で中止になってしまいました。

東京オリンピック日本選手団のユニフォーム

そして1959年（昭和34年）ミュンヘンで開催された第55次IOC総会で、再び立候補した日本は、ベルギー、ウィーン、デトロイトを大差で破り、初めてアジアに聖火が灯る事が決定したのでした。　そして1964年10月10日、第二次世界対戦の敗戦から急速な復活を遂げた日本が再び国際社会の中心に復帰できる、まさに象徴的なイベントとして東京オリンピックが開催されました。大戦後にヨーロッパ諸国やアメリカによる植民地支配から独立を勝ち取ったアフリカ、アジア諸国による初出場が相次いで、参加国は93カ国、参加人数は5133名と、オリンピック史上最大の祭典となったのです。Youtubeで開会式の様子をカラーで見ることができますが、古関裕而作曲のオリンピックマーチに合わせて颯爽と行進する各国の選手団の姿は、今見ても感動的ですね。　

そして開会式のみならずオリンピックの全競技の様子は、衛星中継によって大陸を越えて全世界に同時に伝えられました。　当時は宇宙中継と呼ばれた衛星中継は世界から「アジアからの衝撃、奇跡の中継」と呼ばれるほど活気的な出来事で、NHKの技術者と制作スタッフを始めとする放送関係者の努力の賜物でした。　なぜならアメリカと欧州間の人工衛星を使用する衛星中継は1962年7月に成功したばかりで、日米間の衛星中継実験が初めて行われたのは1963年の11月23日で、当時は静止衛星ではなかったため、衛星中継できたのはわずか20分程度という、まさに曲芸のような中継だったのだそうです。

東京オリンピックの前年の実験衛星中継の成功
そしてその時の映像が映し出したものは？

さて、東京オリンピック前年の11月23日の実験衛星中継の日、何が起こったかご存知だったでしょうか？　

アメリカ中部標準時間午後0時30分、第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディーはテキサス州ダラスのラブフィールド空港からリンカーンのオープンカーで市内の演説会場に向かっていました。　そしてヒューストン通りからエルム通りに左折したとき、何者かに狙撃され病院に運ばれるも30分後に死亡したのです。　事件が起きたのは日本時間で23日（土）午前3時30分のことでした。　この悲報はUPIで、午前3時40分、ついでAFP、ロイター、APが続き大統領死亡が伝えられたのは午前4時40分の事でした。　新聞各社とも締め切りが過ぎて輪転機が回り始めていたのを、ストップしほぼ三分の一を刷り直したそうです。

ケネディー大統領暗殺を伝える新聞

そして同日の朝、通信衛星を使った日米間のテレビ宇宙中継実験を行われました。米国から日本に向けて電波を送信するという事で、この計画の推進役であったケネディー大統領の日本へ向けたメッセージが準備されていました。

午前5時27分、第１回目の内容は、アメリカ航空宇宙局のあるカリフォルニア州モハビ砂漠の風景などが送られてきました。この１回目の実験では、あらかじめ録画してあったケネディ大統領から日本へのメッセージが送られるはずだったのです。しかし大統領はこの時すでに暗殺されていたため、実験開始直前の5時14分、NASAからの宇宙無電で、「実験は予定通り行うが、大統領が映っている分の放送は取りやめる」という連絡が入っていました。

ちなみに、実験そのものは大成功で、新聞各社は感動の瞬間を次のように伝えていました。「モニターテレビに濃淡の模様が出た。続いてＮＡＳＡの模様入りテストパターンが表示され、27分50秒、はっきりとした映像がブラウン管に飛び込んできた。映し出されていたのは、広漠としたカリフォルニア州モハビ砂漠の模様で、一本の木、草まで細かく写っている。国内のテレビ放送と何らかわりはない。“ドキッ”とするようなあざやかな画像、国内放送かと耳を疑うようなハッキリした声・・・それは宇宙時代の新しい夜明けを知らせるファンファーレでもあった」と。　技術者の興奮した様子が手に取るようですね。

ボストンにあるケネディー大統領の生家の前に集まる人々

そして、午前8時58分、第2回目の内容は、毎日放送ニューヨーク特派員の前田治郎さんの日本語ナレーション入りで、ケネディ大統領暗殺というショッキングなニュースが飛び込んできました。ありし日のケネディ大統領の元気な姿が映し出された後、半旗を掲げた街並と、悲しみと興奮に包まれたニューヨークの人々の生々しい表情が伝えられました。　前田さんは「ケネディー大統領の遺体は、いまちょうどワシントンのホワイト・ハウスに送られました。」「ジョンソン副大統領が、飛行機の中で宣誓を行って大統領に就任しました」と原稿もなく、画面を見ながらアドリブで悲報を伝えたのです。

今となっては、ケネディー大統領がどのようなメッセージを日本人に伝えたかったのかは知る由もありません。ケネディー大統領は戦時中に魚雷艇P109の艦長として日本と戦い、駆逐艦天霧と衝突して沈没するも、部下を助け無事に生還したことで英雄になったのですが、自分の上院議員当選を祝福してくれた、戦友でもある天霧の花見艦長に会うことを強く希望していたとも伝えられています。

ダラスの6th Floor Museum

東京オリンピックに向けた日米間初の記念すべき衛星放送実験が、大統領の悲報を伝える第一報となってしまった事は、ケネディー大統領のドラマチックな生き様を象徴するようです。アメリカ人の心に今なお感動を呼び起こすケネディー大統領。　ヒューストン通りからエルム通りに左折した大統領の最期の瞬間を記録した博物館「6th Floor Museum」がダラスにあります。　是非訪れてみてはいかがでしょうか。日本人の心にもきっと感動が蘇ることでしょう。　